レポート
茨城の宇宙ビジネスのこれまでとこれからを知る取材旅|鎌倉学園・探究学習レポート
鎌倉学園高等学校総合探究「森と未来の学校」
つくばといえば、研究学園都市として知られていている土地。JAXA筑波宇宙センターがあることも相まって、茨城に宇宙開発のイメージをもっている方もいるでしょう。しかし、実際にどんな宇宙ビジネスや関連する研究施設・宇宙ベンチャーがあるのかはなかなか分からないものです。
そんな茨城の宇宙ビジネスについて知りたいと、2023年12月14日、鎌倉学園高等学校から3名の高校生が茨城県庁の科学技術振興課を訪ねました。茨城の宇宙ビジネスを探究学習のテーマを決めた理由について「もともと茨城は宇宙産業に力を入れているイメージがあって、いろいろ調べられるんじゃないかと思いました」とのこと。将来は宇宙に関係のある仕事に就きたいと考えている生徒さんもいて、本気度を感じます。
この記事では、3名の取材の様子をレポートしつつ、科学技術振興課の八重樫さんに教えていただいた茨城の宇宙ビジネスについてご紹介していきます。
茨城県は「宇宙ビジネス」を本気で応援しています!
八重樫さんが準備してくださった資料の表紙には「いばらき宇宙ビジネス創造拠点プロジェクト」の文字。さらに、「茨城県は『宇宙ビジネス』を本気で応援します!」というメッセージが添えられています。
「茨城県としては、ロケットや衛星を飛ばすということはしていないんです。あくまで主役は、県内のものづくり企業さんや、これから宇宙ビジネスをしたいと考えているベンチャー企業やその卵。そういった人・企業が大きく成長していけるよう県として支援しています。これが県として進めているいばらき宇宙ビジネス創造拠点プロジェクトです」(八重樫さん)
宇宙ビジネスへの取り組み方にも、いろいろな形があります。例えば、大分県では大分空港を水平型ロケットの打ち上げができる“宇宙港(スペースポート)”として活用することになりました。鳥取県では、きめ細かい砂や起伏に富んだ地形が月面を想起させる鳥取砂丘で実証実験が行えるよう「鳥取砂丘月面化プロジェクト」を進めています。それぞれの地域性を活かして取り組みを進める中で、茨城県では宇宙ベンチャー等を応援する役割を果たします。目指すは、宇宙ビジネスを展開する企業・起業家に選ばれ、日本の宇宙産業をリードする県です。
異例の速さで立ち上げた「いばらき宇宙ビジネス創造拠点プロジェクト」で宇宙ビジネスに注力
通常、このような県の新事業は、検討に時間がかかるもの。県の税金を使って推進するものなので、慎重に進めなければならないのも納得です。それが、このプロジェクトは構想から約半年という異例の速さで立ち上げられたというから驚きです。
きっかけは、2018年2月のG1サミット。様々な社会的な課題や未来のビジョンについて討論される中、知事は宇宙ビジネスのセッションに参加。話を聞いた知事は、今後宇宙ビジネスの時代が来ることを確信し、即日プロジェクトの立ち上げ検討を指示。同年8月には実際にいばらき宇宙ビジネス創造拠点プロジェクトが立ち上げられたといいます。
いばらき宇宙ビジネス創造拠点プロジェクトでは、
・場づくり
・宇宙ビジネス参入への財政支援
・試験設備の整備
・プラットフォーム設置
で県内の宇宙ビジネス支援を進めています。
現在は多くの宇宙ベンチャーが東京に拠点を構えていますが、今後は茨城に誘致したい。さらに、高度な技術をもち、県内ですでに発展しているものづくり企業に宇宙ビジネスにも参入してもらいたい。そのために、参入しやすい環境づくりを県主導で行います。そのほか、さまざまな手立てで宇宙ビジネス創造拠点を目指すのです。
茨城県内の宇宙関連企業紹介
八重樫さんからは、県内で宇宙ビジネスに取り組んでいる企業も一部ご紹介いただきました。探究活動を行っている生徒さんたちには、とってもありがたい情報です。
株式会社ワープスペース(つくば市)
衛星間光通信を軸に宇宙での通信ネットワーク「WarpHub InterSat」を開発
Orbspace株式会社(つくば市)
Orbspace株式会社(つくば市)
再利用可能な小型ロケット「Infinity」の開発
株式会社たすく(つくばみらい市)
宇宙機器と宇宙技術を応用したシステムを開発するエンジニアリングを提供
株式会社Dinow(水戸市)
茨城大学発。放射線等によるDNA損傷の評価サービスなど、ヘルスケアサービスを提供(地上向けだけでなく、宇宙旅行客へのサービスを開発中)
株式会社菊地精機(日立市)
精密な加工技術で高品質な機械部品を製造。宇宙関係では、人口衛星用構体を開発。
スターエンジニアリング株式会社(日立)
非接触ICタグなど多岐にわたるエンジニアリング分野で設計・製造・販売を行う。宇宙関連では、リアクションホイールのモーター小型化等に携わる。
生徒さんたちからの、茨城の宇宙ビジネスに関する質問
一通り八重樫さんに説明いただいたあとは、生徒さんたちからの質問に答えてもらう時間も。宇宙に関心がある生徒さんたちだけあって、視点の鋭さを感じました。いくつかご紹介します。
Q ベンチャーの創出・誘致に力を注いでいるのはなぜですか?
A このプロジェクトが目指すゴールは、県内各地に宇宙ビジネス企業がある一大拠点の状態です。これまではJAXAや大手企業が宇宙開発の中心となっていましたが、今は宇宙ベンチャーなどの民間企業による参入が進みつつあります。こういった流れも踏まえて、若い宇宙ベンチャーや、これから始めようとしている方へのアプローチに注力しています。
開発や設計は自社でするけれど、工場はもっていないという企業も多いので、すでにものづくり企業が多数ある茨城県に任せてもらえるといいですね。これからも宇宙ベンチャーはたくさん出てくると思うので、宇宙に力を入れている県だとアピールしているところです。
Q 県外・国外に向けた取り組みはありますか?
A これからという部分が大きいです。前提として、日本の宇宙産業は、世界の中でまだまだ小さいのです。市場規模が約42兆円(※1)といわれていますが、日本市場はわずか1兆2,000億円程度(※2)にとどまっています。
当然この先発展していく中で、精密なものづくりができる日本に注目が集まるのは間違いないです。そうなったときに、「日本の中でも宇宙ビジネスを頑張っているのは茨城県です」といえる状態になっていたいですね。
※1 衛星産業協会「State of the Satellite Industry」より
※2 内閣府「宇宙産業ビジョン2030」より
茨城の宇宙ビジネスのこれまでと、これからを知ってさらに深い探究活動へ
これは、鎌倉学園高等学校の探求学習プログラムの一環。生徒さんたちは、興味関心に応じて各自選んだテーマで1年間の探求学習を行います。今回県庁を訪れた3名は、「茨城の魅力を見つけ発信しよう!」というテーマを選んだ生徒さんたち。私達・森と未来の学校は、昨年度からこの茨城での探究学習をお手伝いさせていただいています。茨城をテーマに選んだ生徒さんたちは、夏に一度を訪問。
各地を26名全員でバスを使ってめぐり、一泊二日で茨城がどんな土地で、どんな魅力があるのか知ってもらいました。結果、この3名は「茨城の宇宙ビジネス」に絞って探究を深めることに決定。
まずは茨城県全体の宇宙ビジネスについて知ろうと、科学技術振興課の八重樫さんを取材しました。県としてという目線で、茨城の宇宙ビジネスのこれまでとこれからを教えていただくことができました。
この3名の生徒さんは、翌日、八重樫さんのお話にもあったつくば市のワープスペースさんを訪ねています。この活動は最後、グループごとに探究結果をPR用の動画にまとめて発表することになっています。彼らの探究がどこまで深まり、どんな形にまとめられるのかを楽しみにしています。
私たち森と未来の学校は、茨城県での教育旅行を通して「子どもたちの学び・体験のアップデート」、「茨城県の社会問題を解決」することを目指しています。
探究の種がたくさんある茨城での「旅」は、日帰りも可能。首都圏の子供たちが、これからの変化が多い時代を生き抜く力をつけるのにぴったりな場所です。
茨城を舞台に探究型教育旅行をしようと考えている際は、お気軽にお問い合わせください。
記事:荒川ゆうこ