レポート

探究学習を通じて、自ら選択し生きる力を育む|Travel IBARAKI まなべるいばらき 第1回「いばらき教育サミット」セミナーレポート

茨城であれば、明るい未来が見える。

皆さんは、こんなことを考えたことはありませんか?子どもたちが大人になったとき、自ら選択した道を生き生きと歩んでいる、そんな未来を。

「一般社団法人森と未来の学校」では、学校や先生の想いのもと、子どもたちに多様な視点を持ってもらえるような、未来の見える旅を提供しています。

今回は、その活動の一環として、教育旅行の第一線で活躍される講師5名をお招きし、「探究学習とは何か」について考えるセミナー『Travel IBARAKI まなべるいばらき いばらきで旅と学びを科学する 第1回「いばらき教育サミット」』を開催しました。

各々の強みを活かした先進的な事例の数々。探究学習を紐解くヒントが見つかるかもしれません。

教育界のトレンドセッターから「探究学習とは何か」を紐解く

筑波大学体育スポーツ局 スポーツ総括長・山田晋三さんによる事例紹介
いよいよ始まる部活動の地域移行〜私たちはどんな未来を目指すのか?~

筑波大学体育スポーツ局スポーツ総括長・山田晋三(やまだ・しんぞう)さんからは、大学スポーツの課題と今後のスポーツの地域活動への展開についてご紹介いただきました。

画像筑波大学では、大学における競技スポーツ活動をマネジメントする部局「アスレチックデパートメント」を2018年4月に設立。

以下、3つのミッションを掲げて活動しています。

健全化(学校が責任を持つスポーツ活動の確立と人材育成)
最大化(「学校にスポーツがあることの価値」を最大化する貢献事業の創造)
横展開(全国の学校の取り組みを広く共有し新たな学校スポーツを共に創り出す)

今までにない大学スポーツマネジメント組織が大きな成果をあげたことで、2023年4月には「体育スポーツ局」を設置。複数の部局にまたがっていた体育スポーツに係る業務を集約しました。

大学に限らず、多くの学生が部活動(スポーツ)に取り組んでいますが、生活実態を調査したアンケートによると、半数近くの生徒が「友人や家族と過ごす時間や趣味の時間がほしい」との想いを持っていることが判明。心身の健全な発育達成のためにも、活動時間数の見直しが必要だということが分かってきました。

山田さん曰く、日本の大学におけるスポーツ活動は、活動内容や大会のあり方などこれまでの踏襲が多いといいます。

しかしこれからの大学スポーツは、生涯にわたってスポーツを好きになってもらうためにも、大学だけでなく、中学生や高校生を巻き込んだ一つの地域活動としてつながりを作ること、つまりは、「横展開」が大切になってくるのだそう。

アンケートにおいても、8割近い生徒が「地域で他校の生徒と一緒に活動したい」と回答しており、そのためには「健康への配慮・専門的指導・気軽に楽しめること」が重要なのだそう。地域全体で「皆が楽しめる」文化スポーツ活動を創っていくことが、これからのより良い地域活動の展開において必要だとお話されていました。

スポーツを通して、さまざまなコミュニティに所属したり、指導者に会うといったように、選択肢を増やすことで、周りとのつながりが増え、これから先の未来も見えてくるそうです。

また、スポーツにおいて、シーズン制を導入するなど「複数のスポーツに取り組むことで、向き不向きも分かる」と話す山田さん。

選択制の導入やスポーツへの向き合い方、大会へのあり方を変えていくことで、これからの日本社会の未来に貢献していくという視点をいただきました。

 

茨城県立那珂湊高等学校 教諭・横山治輝さんによる事例紹介
キャリア教育と金融教育を活かすリアル高校生株式会社の7年間

茨城県立那珂高等学校・教諭の横山治輝(よこやま・はるき)さんからは、前任校の商業科での「高校生社長ホールディングス株式会社(旧HIOKOホールディングス株式会社」の取り組みをご紹介いただきました。

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同社は、地域の特産品を活用した商品開発を行い、生産・加工・販売まで行う、日本初6次産業型高校生株式会社。高校生でありながら株式会社を経営し、その資金で株式投資を行っています。

企業理念は、地産地”商”と地域貢献

高校生が地域をPRする一つの方法として、一般的な商品開発。ですが、それは単発で終わってしまうことも多いそうです。ですが、本来地域を知ることや地域の人と関係性を持つためには、長期的な視点を持つことが重要であると横山さんは考えています。

実践「的」ではなく、実践する。

地産地”商”と地域貢献に込められた想いは、地域と永続的にお付き合いし、地域のリアルな課題に取り組んでいくこと。生徒自身も農園を経営し、地域の方々と共に特産品の生産をすることで、生産者の「想い」を学び、常陸大宮市や茨城県の素晴らしさ、そのストーリーを伝えられる商人になることなのだそうです。

都会で最先端とされてきたビジネス教育を地域から発信することで、地域発のキャリア教育の付加価値も高めることができるといいます。

「ボランティア的な関係ではなく、責任と覚悟を持って、開発した商品が一体いくらで売れるのか、リアルなビジネス視点を持つことで、地域を担う真のビジネスパートナーになってほしい」と話す横山さん。

こうした株式会社での実践を通して、失敗も成功も経験した生徒たちは、自分の行動に自信を持ち、何事にも挑戦する気持ちが育成されていくといいます。また、ビジネスの難しさの先にある、真の喜びや楽しさを学んだことで、卒業後就職をしても離職率が非常に低いのだとか。

最後に「学校という場がファーストキャリアで、卒業後の就職先がセカンドキャリアになります」とお話を締めくくりました。

 

茨城大学教育学部附属小学校 教諭・菅原慎也さんによる事例紹介

一般社団法人森と未来の学校が選ぶ2022年度「旅と学びの成果」Society5.0 僕らの農業探究
茨城大学教育学部附属小学校・教諭の菅原慎也(すがわら・しんや)さんからは、探究学習「ひびきの学習」についてご紹介していただきました。

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この学習は、身近なものから課題を見つけて、周りと協力しながら、解決策を考えるとともに、ものの見方や考え方を豊かにしていくというもの。

探究学習を実施する上でのポイントは、以下3つです。

1.毎年学習先が異なる(前年度の踏襲は絶対にしない)
2.「夢を叶えるとは何か」「夢を叶えるためにはどうすべきか」という未来の自分を思い描くことができる子になることを目指す
3.子どもたちの「挑戦したい」という気持ちを最優先にする

同校では、国が描く未来の形を動画にした「Society5.0(※)」との出会いから、探究学習の素材として、農業をピックアップ。同校の5年生が農業探究に取り組みました。

農業探究の一部を紹介すると、Society5.0の視点では、未来の農業社会は全て「無人」。ですが、現状一部分のみが無人で残りは手作業であることから、AIや機械を導入した農業を行ってはいけないのかといった疑問が児童の中で生まれたのだそう。
実際にドローンを使用し、農薬散布できる機械などが存在する中で、使いづらさから農家さんへ普及できていないのなら、別な形の農業を調べてみるという結論に至りました。

このような探究学習を通して、「未来の社会」について考える力や提案する力を養っていきます。

養った力は、同校の縦割り班活動「はらから活動」に落とし込んでいくと話す菅原さん。どんな附属小を作っていきたいのか、自分たちで考える楽しさだけでなく苦しさを味わうことで、本当の嬉しさを感じられるのだそうです。

子どもたちが自発的・積極的に学んだとき、新たな課題や興味関心を求めて、研究し続ける力が養われ、学びが育てられていくのだとおっしゃっていました。

 

ドルトン東京学園中等部・高等部 校長・安居長敏さんによる事例紹介
Active Learnerを育てる学習者中心の教育メソッド

ドルトン東京学園中等部・高等部の校長・安居長敏(やすい・ながとし)さんからは、米国で提唱された「ドルトンプラン」と呼ばれる、学習者中心の教育メソッドを取り入れた同校の取り組みについてご紹介いただきました。

画像そもそもドルトンプランが生まれた背景は、生産性や効率重視の管理教育への反発から。同校ではまさに「大人が決めたこと」を生徒に教えるのではなく「新しい学びのカタチを創る」学校として、自由な環境が整えられています。

「子どもは学ぶ力を持っているからこそ、その力を制限してはいけない」と話す安居さん。

同校の特徴として、黒板やチョーク、チャイム、定期テストなど学校で当たり前とされているものがありません。それは常識を疑い、習慣に囚われてほしくないからなのだそうです。

社会は常に変化し続け、学校も変わることから、いつも周りと同じように揃える必要はなく、常に立ち返って考えていきたいとのこと。

そんな想いから「自由と協働」を大きなテーマとし、「育てたい15のコンピテンシー」を掲げて、生徒の自主性・社会性・創造性を育てています。

自らの学びを掘り下げる時間として設けられた「ラボラトリー」という授業では、学習内容と学習場所を生徒自身が決め、学習を進めていくそう。教員は、生徒の学びに応じて学習内容についてのアドバイスを行います。

学校を決して閉じた場所にせず、誰もが見学や対話できる開けた場所として開放することが、結果として周りとつながり、自分を活かせる楽しさや知り合いが増える喜びを感じられ、未来の教育を創っていけるのだそうです。

また、学校運営にあたっても、大学進学が目的ではなく、なりたい自分になるための目標を設定する場所であり、大学進学はあくまで手段の一つ。

同校が大事にしたいのは「生きる力」を育てることで、立ち止まったり、後ろに戻ったりすることがあってもよく、生徒一人一人が納得できる人生を歩んでほしいと考えています。

最後に、学校とはどこにいても自ら考えて学んでいける力を身につける場所だという視点をいただきました。

 

 

大子町立だいご小学校 校長・清水洋太郎さんによる事例紹介
今も未来も幸せに生きる力を育む教育の推進~中山間地域・小規模校ならではの、豊かな体験・交流活動と先進的なICT活用を通して~

大子町立だいご小学校の校長・清水洋太郎(しみず・ようたろう)さんからは、中山間地域・小規模校の強みを活かした事例についてご紹介いただきました。

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清水さんは校長という肩書きを持ちながら、根っからの旅好きで、教員歴よりも旅人歴が長いのだそう。旅というのは、そこでの経験や出会いをもたらし、人生を豊かにするものであるということを一人の人間として感じてきたといいます。

そんな経験から、子どもたちにも本当に良いものを自ら感じ、人とつながったり、多くの経験をしてほしいという想いを持ったそうです。

教育課程の基準を定めた、学習指導要領に込められた「願い」は、以下3つ。

1.学校で学んだことが子どもたちの「生きる力」となって、明日の、そしてその先の未来の人生につながること
2.社会が変化し予測困難になっても、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、それぞれに思い描く幸せを実現してほしい
3.これからの明るい未来を共に作っていく

この願いを大子町という小さな町にある公立の小学校でどのように実現していくべきなのかと考えたとき、中山間地域の小学校だからできないのではなく、できることに焦点を定めるという視点に切り替えていったのだそう。

中山間地域では過疎化が進み、デメリットばかりに目が行きがちですが、メリットとデメリットは表裏一体

自然豊かな町というイメージでありながら、文部科学省が取り組む、生徒一人に一台のコンピューターと高速ネットワークを整備する「GIGAスクール構想」をいち早く取り入れており、コロナ禍も相まって、オンライン授業も積極的に実施されたといいます。

地域に開かれ、社会とつながる学校を目指して、ICTを活用した「令和型ハイブリット教育」が大子町では展開されているのです。

ハイブリット教育とは、田んぼや池、森林など大子町の豊かな自然(アナログ素材)と最新機器(デジタル)を掛け合わせたもの。例えば、田植えの様子を記録する生徒を撮影した様子をウェブ上に動画としてアップするなど、先進的なICT環境を活かした活動を実施しています。

そのほかにも、筑波大学大学院生や留学生との交流も続けています。

教育の最大の目的は、自分らしく楽しく。生徒も学校も、誰もが幸せになることで、コミュニケーション能力も高まっていくそうです。

最後に「今あるものをどう活かすか考える。あとは行動に移し、発信していくことが大事であり、このような経験を通して、今も未来も幸せに生きる力を育むことができます」と締めくくりました。

 

第1回「いばらき教育サミット」を終えて

5名の講師に共通していることは、これまでのフォーマットの踏襲ではなく、それぞれが置かれた立場の中で、生徒たちに自ら選択・提案する時間を提供し、様々な立場の人と交流・つながることの大切さを伝えています。

学生時代にこのような経験をした子どもたちは、自分の道を自らの意思で選択していくことでしょう。

いばらきで旅と学びを科学する、Travel Ibaraki まなべる いばらき。

第2回開催にもご期待ください。

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取材・文 谷部 文香

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