インタビュー

定置網漁で得る海の恵みと人々のつながりを実感できる校外学習|会瀬漁港

河田純さん・佐久間伸也さん

久慈町漁業協同組合会瀬支所

茨城県北部に位置する日立市は、かつては鉱山の町でした。電機メーカーとして皆さんご存知の日立製作所が設立された町でもあり、今では工業やモノづくりのイメージを強くもっている方が多いのではないでしょうか。阿武隈山地の山々と太平洋に囲まれたこの地域は、豊かな自然も魅力です。

今回ご紹介するのは、そんな日立市内にある会瀬漁港。こちらでは、海底に固定した網を使って魚を捕獲。今では県内唯一となった定置網漁を行っています。狙った魚種を掴まえにいくのではなく、ずっと同じ場所に設置してある網の中に泳ぎこんだ魚のみを捕まえるので、「待ちの漁業」です。

これまで学校との関わりは、県内の海洋高校の実習の他、すぐそばの小学校や幼稚園の見学が主だったとのこと。2023年には、私達からのご依頼で、茨城県内の土浦市立土浦第一中学校の生徒さんを受け入れていただきました。

実際に中学生を受け入れていただいた際の感想や、魚や漁に対して思うことを、こちらで働く漁師で漁労長の河田純さんと、副漁労長の佐久間伸也さんが飾らない言葉で答えてくれました。土浦市立土浦第一中学校さんの校外学習の際にコーディネートを担当した森と未来の学校スタッフ・飯塚をふくめた3名の、雰囲気まで一緒にお届けします。

会瀬漁港という教室で児童・生徒が得られる学びとは

 

塚:土浦一中さんの校外学習は「第一次産業」がテーマでした。茨城県の強みでもある第一次産業を生徒たちに知ってほしいという先生方の想いを伺って、県内で一次産業が体験できる3コースを企画したんです。そのうち漁業コースの生徒さんが、こちらでお世話になりました。
魚を水揚げした船が戻ってくるところから見学させてもらって、その後実際に魚の仕分けや計量・運搬を体験させていただいて、入札の見学までさせてもらいました。

佐久間さん:コロナ前は、県内の海洋高校の生徒さんは泊まり込みで実習に来てたから船に乗るところから体験してもらっていたけど、もう何年かできていないね。近くの池の川幼稚園の子が見学に来たり、会瀬小学校の、地域企業の人から話を聞く会に呼ばれて漁の話をしたりすることはあるけど、海洋高校生以外で実際に魚に触る体験をしてもらったのはが土浦一中の子たちが初めてだね。

河田さん:俺は子どもたちがあんなに積極的に魚を触れるとは思わなかった。女の子たちは、生臭いとか汚いイメージで全然触らないのかななんて思ってたけど、そうじゃない。どんどん掴んで仕分けしてたもんね。

飯塚:場所の都合で、生徒さんたちを2グループに分けて仕分けしてもらったら、チェンジ後に最初の子たちが「私達まだ仕分けできますか?」って尋ねにきました。アンケートにも「やさしく教えてもらえて、もっとやりたかった」という声がありました。

佐久間さん:思ってたよりもずっと動いてくれて、本当すごいなと思いましたね。

飯塚:商品になる魚に実際に触れられて、楽しく体験させてもらえたのが良かったんだと思います。アンケートでは、鮮度を保つために魚を締めるところが印象に残ったというコメントも多くありました。「その瞬間魚がビチッと跳ねるのを目の前でみて、久しぶりに命を感じた」と書いている子もいました。

河田さん:見ていて、やっぱりみんな魚好きなんだなって思ったね。今、魚を食べるって言ったら回転寿司とか白身のフライとかくらいになっているけど、見学にきた子たちが「魚食べたい」って親に言って、食卓に魚が出る回数が増えるといいよね。

飯塚:あの日の午後、生徒さんたちは近くのスーパーマーケット・マルトさんで、入札した魚が店頭に並ぶまでを学ばせていただきました。一連の流れを見たことが、生活にも活かされていたらうれしいです。

会瀬ならではの、定置網漁を選んだ毎日

飯塚:お二人が会瀬で漁師さんをしているのは、ご家族も漁師だったからなんですか。

河田さん:俺は栃木出身で漁とはまったくない家庭で育って。でも親が釣り好きで、魚は見るのも食べるのも好きだった。最期、骨を海に撒いてくれって言ってあるくらい海も好きだね。

佐久間さん:俺も出身は茨城じゃなくて青森。水産高校を出て、茨城の定置網の求人を見てここに来ましたね。他にも求人はあるにはあったけど、地元で巻き網漁とか、東京で捕鯨漁とか。どれも船に乗ったら1週間とか数か月は帰ってこられないものばかりだったから、じゃあ定置網がいいなと。

河田さん:やっぱり夜は丘で寝たいよね。

飯塚:「丘で寝る」って、他では使わない表現ですね…!

河田さん:朝は早いけど、魚を取りに行ったら8時か9時には戻ってくるし、夜に外で泊まることもない。携帯電話の電波も届く範囲だし、子どもにも毎日会えるし。魚種も何十種類も見られるし、定置は面白くていいよ。

佐久間さん:何か特定の魚を狙ってとるのとは違うから、その日行ってみないと何が入っているかは分からない。前の日たくさんいた種類が、次の日はまったくいなくなっているっていうのもザラにあるね。

河田さん:網にはサメでもマンボウでもカメでも何でもかかるし、毎日魚を見ている俺らでも未だに初めて見る種類の魚がいることもあるよ。

飯塚:漁港は茨城県内の他の場所にもあるけれど、会瀬でしかできない体験だから、県内外の児童・生徒さんに来てほしいですね。

茨城県内の子たちの多くは大学進学でほとんどの場合県外に出てしまうし、県外から茨城に進学してくる子もほとんどいません。どこかに進学・就職してもいいから、人生の生きる場所を変えるタイミングでいつか茨城にきてほしいなと思うんですよね。漁師さんみたいに、普段はあまり関わらない仕事こそ、子どもの頃に一度でも体験して知っていれば、いつか選択肢になるかもしれないから。

“魚種の多様さ”と、“海から見る丘の景色”をその目で見てほしい

 

飯塚:はじめに会瀬漁港の皆さんと私達をつないでくださったのは県庁と日立市役所の方でした。以前は近隣の学校さんの見学のみだった中で、森と未来の学校からの依頼をうけてくださった背景を教えていただけますか。

河田さん:行政の人たちから、前から「会瀬漁港を観光地にしよう」って話は前からあったんです。でも俺たちは素人だから、観光なんて何からどうしたらいいか分からないじゃないですか。目と鼻の先に住んでいる会瀬小学校の子どもたちだって定置網のこともこんなに魚がとれることも知らないんだから、もっと広めていかなきゃっては思っていたけど。
そこに県南地区の学校の校外学習を受け入れてほしいって話をもらったから、話を聞いてみようかな、と。

飯塚:そうしたら、思った以上にぐいぐい押されてしまったと(笑)。

河田さん:そう(笑)。「船に乗せるのは無理だよ」って言っても、それでいいっていうし、それなら来て見学していってもらうとか、仕事の説明するのはできるよって決まったね。

佐久間さん:観光してもらうって、船に乗せないと無理だと思っていたんだよね。人を乗せるための設備はまだ整っていないし、乗せていって何かあったときの対処法もないし。観光=見学してもらうことだと思っていたから、自分たちの中で観光=体験という案は出なかったですね。

飯塚:確かに一般の観光客のお客様向けなら船に乗って漁の見学をするのがメインになるかもしれないですよね。私達の旅行のメインは学校さんなので、学校現場からしたら大事な商品を触らせてもらえて、しかも仕事の一部を本当に体験させていただけるのが本当にありがたいことです。今はタブレットなどで学校や家から現場の様子を動画で見ることはできちゃうけれど、実際の場所を尋ねて、自分が体験してみるって、記憶への残り方が全くちがいます。
前回会瀬漁港に来た子たちのアンケートは文字の漁がすごく多くて、それだけ生徒さんたちの記憶に残るものが多かったんだなって感じたんです。

河田さん:同じように、仕分けから入札の準備までを見学・体験してもらうのはいつでもできるよね。

佐久間さん:前回は、入札のことはほとんど説明できないまま見学してもらったから、何をしているかあまり分からなかっただろうけど。

飯塚:それでも入札の、真剣勝負の時間なんだって緊張感や空気感は伝わっていました。終わった瞬間、自然に「おーっ!」って拍手が出ていましたし。

取れる魚の量によって作業時間も前後するでしょうけれど、可能なら入札前か、入札中に「魚の名前・値段を読み上げて、屋号を呼ばれた人が買えるんだよ」くらいの説明をしていただけると分かりやすいかと。

河田さん:そうしよう。設備が整ったら、網を一緒に引っ張るところから体験してほしいけどね。網を絞っていくときは、いろんな魚が泳ぎながらひしめき合ってるのが見られるから、絶対楽しいと思うよ。

飯塚:私、最初に来た時にそれを見せてもらって、絶対忘れられません。本当にぎゅーって絞っていく中で、魚がビチビチッって暴れてて。当たり前なんだけど、生きてる!って感じました。

佐久間さん:生き物を扱うから、いろんな感情はあると思います。悲しくて泣いちゃう子もいるし。研修できた水族館の受付の人も、入札にかけない魚を泣きながら逃がしてました。

飯塚:配慮はしながら、体験を通じて私達の食卓にあがるまでのことを考える機会にしてほしいです。

河田さん:ここに来た子の何人かが「漁師になりたい」って若い子が来てくれたらうれしいよね。底まで見えそうな日の綺麗な透き通った海とか、海側から見る丘の景色とか、見たことがない景色も見せてあげたいと思うよ。

 

 

河田純さん・佐久間伸也さんの職場・久慈町漁業協同組合会瀬支所
〒317-0076 茨城県日立市会瀬町1丁目1‐8

https://www.instagram.com/ohse.hitachi/

会瀬漁港への校外学習のご相談は、森と未来の学校まで。学校や児童・生徒さんの実態に合わせてオーダーメイドの校外学習をサポートします。